副業禁止は法律的にOKなの?企業が副業を禁止する理由についても解説

「収入を増やしたいので副業したい。会社が副業を禁止しているけど、副業してもいいの?」

このような方も多いことでしょう。

実は、企業による副業の禁止・制限は、必ずしもOKというわけではありません。
副業について、弁護士が解説いたします。

企業の副業禁止はOKなの?

会社員の方は、法律上、副業を禁止されていません。
もっとも、企業は、就業規則などにより、独自のルールを作ることができますので、副業禁止あるいは副業を許可制にする企業もあります。
では、この企業による副業の禁止・制限は許されるのでしょうか。

実は、企業による副業の禁止・制限は、必ずしも許されるわけではありません。
というのも、前提として、憲法第22条1項において職業選択の自由が保障されているため、基本的には、労働者がどんな仕事を掛け持ちしても本人の自由だからです。

裁判例では、基本的に副業は禁止・制限するべきではなく、各企業において副業を禁止・制限することが許されるのは、副業を許すと、以下のような弊害が生じる場合であると判断する傾向にあります。

[弊害の例]

  • 労務提供上の支障がある場合
  • 業務上の秘密が漏洩する場合
  • 競業により自社の利益が害される場合
  • 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

参考:副業・兼業の促進に関するガイドライン|厚生労働省

公務員は法律で一定の副業が制限される

公務員の一定の副業は、次の通り法律によって制限されています。

(1-1)国家公務員法第103条

1項 職員は、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下営利企業という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、又は自ら営利企業を営んではならない。
2項 前項の規定は、人事院規則の定めるところにより、所轄庁の長の申出により人事院の承認を得た場合には、これを適用しない。
引用:国家公務員法第103条

この国家公務員法第103条は報酬の有無を問わず、営利企業における一定の副業を制限するものです。
同法により、人事院の承認がなき限り、以下の副業は禁止されています。

  • 営利企業の役員等の兼業
  • 営利企業の自営の兼業

一定規模以上の不動産・駐車場などの賃貸、太陽光電気の販売、農業などが「自営」に該当すると解釈されています。

参考:人事院規則14-8(営利企業の役員等との兼業)の運用について(昭和31年8月23日職職-599)|人事院

(1-2)国家公務員法第104条

職員が報酬を得て、営利企業以外の事業の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、その他いかなる事業に従事し、若しくは事務を行うにも、内閣総理大臣及びその職員の所轄庁の長の許可を要する。
引用:国家公務員法第104条

この国家公務員法第104条は、営利企業の役員等兼業や自営兼業以外で、報酬を得る場合の一定の副業を制限するものです。
営利企業以外で、「労働の対価として報酬を得る」+「事業又は事務に継続的又は定期的に従事する」場合には、内閣総理大臣及びその職員の所轄庁の長の許可が必要とされています。

(1-3)地方公務員法第38条1項

職員は、任命権者の許可を受けなければ、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下この項及び次条第一項において「営利企業」という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。ただし、非常勤職員(短時間勤務の職を占める職員及び第二十二条の二第一項第二号に掲げる職員を除く。)については、この限りでない。
引用:地方公務員法第38条1項

地方公務員も、国家公務員と同様の副業制限があります。
すなわち、地方公務員は原則として、任命権者の許可なき限り、次の副業が禁止されています。

  1. 営利企業の役員等の兼業
  2. 営利企業の自営の兼業
  3. 報酬を得て事業又は事務に従事すること

(1-4)公務員が副業を制限される理由

上記のように公務員の一定の副業が法律で制限されるのは、公務員が国民全体の奉仕者であることが求められており、特定の業種に利益を与えていると取られかねる行為は望ましくないためです。

参考:国家公務員の兼業について(概要)|内閣官房 内閣人事局
参考:地方公務員の社会貢献活動に関する兼業について|総務省

企業が社員の副業を禁止・制限する主な理由

では、企業はなぜ社員の副業を禁止・制限するのでしょうか。
この理由として主に次のようなものがあります。

  • 副業を許すと社員の長時間労働・過重労働を助長するため
  • 企業のノウハウや情報の流出を防ぐため
  • 副業中の法律違反で企業イメージを損ねる可能性があるため
  • 本業の就業時間中に副業を行われる可能性があるため
  • 本業で得た人脈や知識を副業に使われる可能性があるため
  • 本業との利益相反につながるため
  • 人手不足や人材の流出につながるリスクがあるため

このように、企業が副業を禁止・制限する主な理由は、会社に損失や損害を与える可能性があることを懸念する点にあります。

働き方改革により、副業を認める企業が急増中!

これまでは、上記理由から副業を禁止・制限する企業が多かったのですが、副業を希望する労働者は多く存在しました。
労働者からしてみれば、副業により、収入アップやスキルアップなどを図ることができるからです。

こうした流れを受けて、近年は、働き方改革の一環として、副業を認める企業が増えています。

2018年1月、厚生労働省は、副業に関するガイドライン(「副業・兼業の促進に関するガイドライン」)を定めました。
このガイドラインでは、副業を原則として認める方向性で記載されています。

また、厚生労働省は2018年1月にモデル就業規則を、

「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」
引用:副業・兼業の促進に関するガイドライン|厚生労働省

と改訂しています。

参考:副業・兼業の促進に関するガイドライン|厚生労働省

副業をする前に注意すべきこと4つ

副業をする前に注意すべきことについてご説明します。

参考:副業・兼業の促進に関するガイドライン|厚生労働省
参考:モデル就業規則について|厚生労働省

(1)労働契約・就業規則などを確認

前述の通り、企業による副業の禁止・制限が必ずしも許されるわけではありませんが、一定の場合には副業の禁止・制限が認められます。
企業がどのような場合に副業を禁止・制限しているかどうか、労働契約や就業規則などを確認する必要があります。
企業によっては上司に副業許可の申請の必要があることがあります。

(2)働きすぎに注意

副業をすることによって、仕事をする時間が長くなる可能性があります。
しかし、働きすぎは、心身に過剰な負担を与えることがあります。
副業をすることにより、働きすぎの状態になってしまわないか、よく考えましょう。

(3)本業に対する諸々の義務違反にならないか注意

副業をすることで、本業に対する職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務などに反することにならないか注意することが必要です。

(4)確定申告が必要となる場合あり

副業の所得が1年間で20万円を超えたら確定申告が必要ですので注意しましょう。

副業の禁止・制限に違反したら懲戒処分になる?

副業の禁止・制限に違反すると、懲戒処分となることがあります。
しかし、必ずしも懲戒処分が有効であるわけではありません。

裁判例では、就業規則において、会社の許可なく副業した場合に懲戒事由としている場合において、形式的に就業規則の規定に抵触したとしても、

  • 職場秩序に影響せず、
  • 使用者に対する労務提供に支障を生ぜしめない程度・態様のものは、

就業規則に反するものではないとして、懲戒処分を認めていない傾向にあります。

参考:副業・兼業の促進に関するガイドライン|厚生労働省

副業をすると、残業(時間外労働)の計算はどうなる?

副業をすると、残業(時間外労働)の計算方法も変わります。

参考:副業・兼業の促進に関するガイドライン|厚生労働省

(1)残業代(時間外労働による割増賃金)は、本業と副業の労働時間を通算して計算

法律上、労働者の法定労働時間は、原則1日8時間、週40時間と定められており、これを超えると原則として、割増賃金(残業代)の支払いが必要となります。
※管理監督者など一部の業種の方を除く。

労働時間は、本業と副業の労働時間を通算して計算します。
例えば、本業:1日7時間労働、副業:1日2時間労働をしている場合、労働時間は1日9時間となり、原則として1日つき1時間の時間外労働が発生していることになります。

(2)残業時間の上限も、本業と副業の労働時間を通算して計算

時間外労働を無制限に認めてしまうと、心身に過度な負担をもたらしてしまうため、時間外労働の時間数には様々な上限規制が設けられています。
その上限規制の一つとして、時間外労働と休日労働の合計を、「単月100時間未満、複数月平均80時間以内」にしなければならないとの規制があります(労働基準法第36条第6項第2号、第3号)。

当該上限規制に違反していないか計算する際には、本業と副業の労働時間を通算することになります。

【まとめ】副業は必ずしも禁止ではない

以上をまとめますと、次の通りになります。

1.会社員の副業は基本的には可能です。
ただし、一定の場合に、会社の就業規則で副業を制限することは禁止されてはいません。

2.会社員が副業の制限に違反して副業をしていると、懲戒処分される可能性もありますが、裁判例上、必ずしもその懲戒処分が有効になるわけではありません。

  • 職場秩序に影響せず、
  • 使用者に対する労務提供に支障を生ぜしめない程度・態様のものは、

就業規則に反するものではないとして、懲戒処分を認めていないのが裁判例の傾向です。

3.他方、公務員の場合、職務の公平性を担保する趣旨から、法律によって、副業が原則として制限されています。

4.会社員の方の場合、副業が許されているかどうか、どんな副業が許されるのか、副業を行うにはどんな手続きが必要なのかは、労働契約や就業規則をしっかりと確認しましょう。

副業に関してご不安な場合は弁護士に相談しましょう。

この記事の監修弁護士
髙野 文幸
弁護士 髙野 文幸

弁護士に相談に来られる方々の事案は千差万別であり、相談を受けた弁護士には事案に応じた適格な法的助言が求められます。しかしながら、単なる法的助言の提供に終始してはいけません。依頼者の方と共に事案に向き合い、できるだけ依頼者の方の利益となる解決ができないかと真撃に取り組む姿勢がなければ、弁護士は依頼者の方から信頼を得られません。私は、そうした姿勢をもってご相談を受けた事案に取り組み、皆様方のお役に立てられますよう努力する所存であります。

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